むかしむかし、珊瑚礁の果てしない海原のほとりに、一人の老人が住んでおりました。
70の星霜を重ねたその老人は、まるで島そのものであるかのように、
静かに、しかし力強く生きていたのであります。
朝は、まだ闇が少し残る薄明かりに、海は銀色の鱗のようにきらめき、
老人の家の縁側には、遠い記憶の匂いがただよっていました。
トマトの苗は、海からの潮風に揺られ、青い影を落とし、
老人の畑は生命の鼓動で満ちていたのです。
正月と旧盆、都会から家族が帰ってくる。その短い時間は、
まるで遠い星から届いた光のように、老人の心を照らします。
しかし、家族が去った後の静けさは、深い青い海のように静かで、
時には物悲しくさえありました。
自宅の仏壇に、老人は手を合わせる。
先祖の霊に、遠く離れた家族の幸せを祈ります。
海は知っている、すべての物語を。
潮の満ち引きのように、人生もまた、静かに、
しかし確かに流れていくのだと。
老いた漁師たちと交わす会話は、まるで海の古い歌のよう。
塩の匂いがする風は、記憶の断片を運んでくるのでした。
孤独は寂しさではない。それは宇宙の静かな呼吸であり、
自然との神秘的な調和なのだと、老人は知っていたのであります。
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